松本山雅の選手たちも勝利を捧げようと高いモチベーションで挑んだに違いない。ところがその重圧が大きすぎたのか、思いのほか入りが悪かった。ボールポゼッションをしながらギャップを突いてくる愛媛の攻撃を封じられず、ボールを奪うポイントが見つからない。関塚ジャパンの前線からのハイプレスを見た直後だけに、どうも守りが後手後手に回っている印象が際立った。そして前半のうちに失点してしまう。今季の松本山雅は先にゴールを許した試合はほとんど勝てていない。そういう意味でも苦境に立たされた。

それでも何とか巻き返そうと反町康治監督は後半から守備システムの変更を試みた。相手サイドの上がりを防ぐために中盤にアンカーを置き、その前に2人を配置してその彼らに相手のサイドを見させることにしたのだ。この手当によってようやく愛媛の攻撃に歯止めがかかり、松本に攻撃チャンスが生まれるようになる。

そして残り10分というところで途中出場の久富賢が同点弾を叩き込む。反町監督も「天国の松田が『こんなんじゃいけない」とハッパをかけて、それに奮起した選手たちがようやく山雅らしさを出した。負け試合だったが勝ち点1を拾えた」としみじみ話していたが、確かに目に見えない力が働いて黒星を阻止できたのかもしれない。山雅の選手たちも安堵感を浮かべていた。

偉大な選手に思いを馳せることができた貴重な試合に合わせ、一般社団法人 松田直樹メモリアルが静岡市の広告製作会社の協力を得てAED(自動対外式除細動器)を松本山雅に寄贈した。

松田の親友で、同法人の会長を務める安永聡太郎氏が「直樹の死を悲しんでいるだけでは本人も浮かばれない。どうにかして第2の直樹を出さないためにはどうすればいいかを考えた時、少しでもAED普及に尽力していくことが一番じゃないかなと思った」と語ったように、助かる命を救える環境を整えようと彼らは動き出したのだ。

確かに松田直樹が急性心筋梗塞で倒れた際も、AEDがあれば命を救える可能性はゼロではなかった。しかしそれを設置しているスポーツ施設は限られている。まずはAEDの数を増やし、使い方をみんなが学んでいくことが、悲劇を繰り返さないために必要不可欠なのだ。

「AEDの設置台数を増やすことはもちろんのこと、どこにあるか全国のみなさんに発信したり、サッカー教室を実施する中で使い方を説明したりすることはすごく大事。そういう情報を広めていくことが次の一歩につながる。AEDも安いものではないので、何台も僕らが寄贈できるわけじゃないけど、そういうものが必要なんだということは今後も言い続けていきたい」と安永氏は繰り返し強調していた。

松田直樹の悲劇が起きてから、私自身もAEDがどこにあるかをかなり気にするようになった。東京でもJR主要駅や国立競技場、味の素スタジアムなど大きな施設には必ず設置されている。だが、実際に使ったこともなければ、使用方法を学ぶ機会もないため、もしも目の前に心臓発作を起こした人が現れたら、迅速な救急救命活動ができるかどうかかなり不安である。おそらく多くの人々が私と同じ状況ではないだろうか。

松田が亡くなった後、各県や地域のサッカー協会が中心となって指導者を対象に講習を積極的に開くようになったという話はよく耳にするが、それだけではまだまだ足りない。指導者だけでなく、選手たちや保護者、我々のようなサッカーに携われる関係者まで知識が伝達されてこそ、安心な状況が生まれるのだ。

Jリーグの試合前に観客にAED使用方法の説明をしたり、各ゲートのところで実演をしてみせるなど、できることはいくつも考えられる。それを各クラブがまずは積極的にやってほしい。高円宮杯や全国少年サッカー大会など育成年代の大会前に講習会を義務づけるくらい大胆にやってもいいだろう。そうやって正しい知識が広がることが、松田直樹の死に報いることになる。私自身も安永氏らを見習って、まずはAEDや心臓マッサージの方法を学ぶなど、できるところからスタートしたい。メディアの一員としてより多くの人々に知識が伝わり、AEDが普及していくように尽力したいと改めて痛感させられた。

http://jsports.co.jp/press/article/N2012080623321502.html